さようなら、きのこ

 ♪白やぎさんからお手紙着いた〜
 ♪黒やぎさんたら読まずに食べた〜
 ♪仕方がないのでお手紙書いた〜

白やぎ様

拝啓 初冬の候 白やぎ様におかれましては、お変わりなくお過ごしでしょうか。

先日お送りいただきましたお手紙ですが、こちらの手違い(というか腹違い?)で、誤って食べてしまいました。白やぎ様から三十年ぶりに届いた、来る日も来る日も待ち続けたお手紙だったにも関わらず、このようなことになってしまい非常に心苦しく、夜も寝られない思いです。メエエエエ。
大変失礼とは存じますが、もう一度お手紙をお送りいただくことは可能でしょうか。

敬具


 白やぎさん、すごい。届いてすぐ食べたんだから、手紙を。届いた手紙はすぐ食べちゃったのに、返事はちゃんと出せたというのも、すごい。筆を走らせているあいだ、目の前にある便せんを食べちゃいたい欲求を、こらえ続けたということになる。これはもう、やぎとしては、すごい立派。もはややぎじゃない。やぎを超えた存在。サバンナ八木(これが言いたかっただけ)。


 そういえば、今朝、満員電車から降りれなくて、困った。あ、もうやぎの話は完全に終わって、全く別の話に移ってますよん。
 僕は電車の、どの扉からも一番遠いあたりに立っていて、「降ります」って言ってるのに人が多すぎてなかなか前に進めなくて。で、逆にホーム側からドンドン人が(ドンドンジンじゃないよ)乗ってきちゃって、初めて「あ、これ降りられないかも」って思いました。
 でもまあ、そんなわけにはいかないので、かなり強引に「降ります降りますー」って言いながら人を押しのけたんだけど、結構いろんなひとに嫌な顔とか舌打ちとかされて、朝から少し悲しい気持ちになりました。
 で、なにより悲しかったのは、ケータイに付けていた、お気に入りだったキヌガサタケのストラップが、ちぎれて無くなっちゃったことです。ぷにぷにしてて、かわいいやつだったんです。多分、電車から出るとき、人の体にグイーってなって、落っこちちゃったんだろうなあ。
 あいつが、電車のなかで、みんなに踏まれて、汚れちゃって、汚い目で見られて、ゴミとして捨てられちゃって、っていうのを想像すると、辛くてたまらない。あいつがいまごろ、どうなっているのか、考えるだけで、胸が痛い。本当に、申し訳なくて。これからもずっと、僕のケータイにぶら下がってたはずなのに。
 あー、だめだ。くそ、なんでこんなにさみしいんだろう。かわいかったんだよなあ、かわいかったんだ。たぶん、俺の思い出とか、気持ちとか、一緒に背負ってくれてたのかな。わからん。わからんが、無性に、むしょおおおに、悲しいのです。

 そんな傷心を癒すために、ブックファーストの植物のコーナーに行ってみたら、ありました、きのこの図鑑や雑学本、写真集などが、ずらりと。で、そのなかに、とてもかわいい本がありました。『少女系きのこ図鑑』という本。擬人化されたきのこの絵がめっちゃたくさん描かれていて、どれもタッチがすごくやわらかくて、見ていてそーとー癒されました。なんだろう、今日の自分、「ぷにぷに」とか「癒し」とか言っててなんか気持ち悪いですが、そういう夜もある、とおおめに見てくれたら嬉しいです。で、その本を買うか迷い中。
 きのこの本は、冬虫夏草の本とか、『きのこ文学名作選』という装丁がめちゃくちゃ攻めてる本とか、いろいろ持っています。どこか言葉にできない魅力があるんですなあ、やつらには。