料理のできない男

 僕は、料理のできない男である。

 今日、夜の八時頃に帰ってきたのだが、いつもなら外で食べてくるところを、たまたま朝にご飯を炊いていたので、その残りを食べようと思って、食材を買いに駅前のスーパーに立ち寄った。そう、数か月ぶりに、フライパンを使っておかずを作ろうと思ったのだ。

 まず、スーパーに行くのが面倒だ。そして、店内での買い物がさらに面倒。主婦がたくさんいて、面倒。で、野菜炒めにしたのであるが、野菜炒めに必要な野菜がなんなのかもわからない。面倒。結局、「野菜炒めの野菜、集合!」みたいなパックを買う。で、味付けが分からないから、焼き肉のたれを買う。僕の料理の味付けは、全て焼き肉のたれに頼っているといっても過言ではない。主婦がたくさんいるレジに並んで、レジを通過する。主婦はとにかく、近くにいるだけで、面倒。失礼。財布を取り出すのが面倒だし、なんやかんやで野菜は高いし、お肉も買うしで、松屋の定食くらいのお金が無くなる。このお金を稼ぐのが、また面倒なのだ。
 で、家までスーパーの袋を持って帰るのが面倒。袋を持っていると、バッグから玄関のカギを取り出すのが面倒。帰りついて、一度食材を冷蔵庫に入れるのも面倒。冷蔵庫、小さいし、狭いスペースに押し込んでいるので、出し入れが面倒なのである。
 ひと段落して、さあ、野菜を炒めよう、となったときに、うちのガスコンロは壊れていて、種火が起きないので、チャッカマンで火をつけなければならないので、面倒。手際良く付けないと、ガスが広がった後に火を近づけるとボオオッってなって危ないので、面倒。で、その後「プツン」と火が消える可能性が50%なので、面倒。消えたらまたチャッカマンなので、面倒。というか、なんならガス代ちゃんと払ってないことがあるので、いつ付かなくなるかという恐怖に怯えており、ガスを使うこと自体が面倒。ガス代もかかるし、面倒。
 で、炒めるのも、キッチンが非常に狭いので、フライパンが上手く扱えず、面倒。野菜が飛び散ると、コンロ周りがとても狭いので、後片付けが面倒。さらに、うちのキッチンは食器を置く場所がなく、仕方なくコンロの上に突っ張り棒をいっぱい用意して、うまいこと食器を置いているので、炒めものをするとそれらに油が移ったりして、面倒。それが嫌だから換気扇をつけると、「キュルキュルキュル……」と異常な音を出すので、面倒。
 で、家に油もないので、手順がいろいろと面倒。塩コショウを振るも、加減が分からず、面倒。
 出来上がりなのか、これは?と疑心暗鬼になりながら完成するので、面倒。できあがったものを食器に移したいが、大きな食器がないので、面倒。小さい食器に入れると、案の定こぼれて、面倒。というか、食器に移すためには食器を置くスペースが必要であり、そんなスペースないので、細い細いシンクの淵に食器を置いて移すのだが、これが全然安定せず、もし倒れると料理が全滅するので、面倒、というか、ジ・エンド(何度か経験あり)。
 出来上がりを居間に持っていくとき、冷蔵庫と壁のあいだの狭いスペースを通らねばならず、面倒。で、ここでだいたい汁物がびちゃっとこぼれるので、床を拭くのが面倒(僕はマクドナルドに行くと3回に1回は飲み物を席まで持っていけずにこぼす人間)。で、居間のテーブルに皿を置くスペースをつくらねばならず、それがかなり面倒。

 で、食べるも、美味しくないので、もはや全部食べるのが面倒(というか、すいません、だいたい捨てます)。

 で、パックの残骸とか、野菜の残りとか、処理が面倒。洗いものも、かなり面倒。狭い家なので家中が野菜炒めの臭いになって、ファブリーズが面倒。洋服にはねた油も、面倒。

 で、毎回の感想。「もう二度と料理はしない」。


 分かりますか。「料理をする」っていうのは、とてつもなく恵まれた環境がないと、できないんですよ。食材、調味料、インフラ、ガスコンロ、物理的な空間、フライパン、食器、お箸、そんなものはね、必ずあるってわけじゃないんですよ!! 

 てことで、うん、おやすみなさい。