あつい

 あつくて、どうしようもない。

 僕は休みの日はたいていこうして一日家にいるのだが、今日みたいに風がない日は、本当につらい。
 僕は、「暑い」という漢字を書くことに抵抗がある。いま、僕はたしかに「暑い」と感じているわけだが、なんか、「熱い」より「暑い」のほうがあつくなさそうで、腹が立つ。できることなら「熱い」と書きたいが、「字が間違ってるよ」と言われたら余計に腹が立つので、やめておいた。

 腹が立つ、と言えば、先日ある人に「あなたが乗っている高速バスは高い!」と言われる事件が起きた。この事件は一ヶ月に一度くらい、早とちりな人間によって引き起こされる。前回の概略はこうだ。

 話の中で、僕が「関西に行くときには高速バスを使っている」と言うと、その人が「いくらくらい?」と聞いてきた。僕が「片道6000円くらいだよ」と言うと、「高い! それめっちゃ高いよ!」と言ってくる。

 この時点で、僕は非常に頭にきている。

 こちらが買ったモノやサービスについて、「それは高い、もっと安い手段があったはずだ」と一方的に言われると、なんにせよ良い気分はしない。僕なんかは性格が悪いので、たとえそれがアドバイスであっても、「こちらのことを考えてくれてるんだな」というより「節約上手なのをアピールしたいんだな」と思ってしまう。ちなみに僕は、寮に通っていた高校時代から年に何度も高速バスを使ってきたし、実家に帰る時は東京と福岡を往復することもあって、さらに最近では関西にもほぼ月に一度は行っているし、東北や北陸にも高速バスで行ったことがある。高速バスに関しては、かなり乗ってるし、知っている自信がある。

 で、そう告げても、その彼は「関西までの高速バスなら、3000円くらいのものがいくらでもある」と言って聞かない。どうやら以前に乗ったことがあって、そのような値段だったらしい。
 
 彼の発言の、種明かしをする前に。これと同じことは、他にも色々と経験がある。たとえば、LCCの航空券が「東京-福岡間で3000円」などということがニュースになったりすると、福岡の親類が「あの安いチケットで帰ってきたらいい」などと簡単に言ってくるのだ。
 言っておくが、安いチケットというのは、その裏にさまざまな条件がある。まず、発着の時期が限定されている。お盆や正月などの「帰省シーズン」は外れている。次に、曜日の問題がある。同じ便でも、曜日によって金額が大きく(ほとんど倍近く)異なる。さらに細かく言うと、発着の場所が不便だったりすることもあるし、そもそも時間帯によっても金額が全然違う。そして、大半が「枚数限定」で、手に入れるのになんだかんだ苦労を要する。「甘い話にはワナがある」のだ。

 その彼との会話でも、よくよく聞いてみると彼は「オフシーズンの」「平日の」「深夜便」に限った話をしていて、それで「関西行きの便は3000円が普通」だと思い込んでいたらしい。

 で、僕がなぜネチネチ怒るかというと、僕だって旅費は安くすませたいし、それなりにいろいろと調べているのである。そうしたところに「あなたは損をしている」と突き付けられて、それが本当のことなら、こっちだって嬉しい。次から彼の言うとおりにすれば、得をするわけだから。しかし、こちらに期待だけさせておいて、そのような「お得情報」は真っ赤な嘘であり、あてにならないことが多すぎる。よく「超格安! 3000円〜」などといった広告を雑誌やネットで目にするが、ああいうのってたいてい条件を絞っていくと3000円にはおさまらないでしょ。ああいう「誇大広告」を日常会話で振り回している人を見ると、「ああ、人間って大きく言いたいんだなあ」と思ってしまう。寂しいのである。

 そして、彼はたぶんこの記事を見るだろうから、本人に告げる。今後は反省してほしい。それか、僕が言う条件をすべて踏まえたうえで、実際に格安のチケットを取ってきてほしい。僕が払う3000円との誤差は、全額負担してくれるよね?