たごもりそ著『たごもりそ全引用集』

 これは、新たな文学であり、コラージュ作品であり、21世紀のレディ・メイドである。



 すべてを額縁に入れて飾ろう。



高校球児は、真夏の炎天下で競い、敗れ、サイレンの声で泣かなければ、なんの価値もない田舎の馬鹿高校生である。甲子園から去っていくのは彼らだけで、われわれは来年、すべてを忘れてこの場所に戻ってくる。新たな高校球児を、甲子園から永久に追放するために。(たごもりそ著『甲子園外』より)

高校球児が輝いて見えるのは、夏が終われば彼らは死ぬからだ。炎天下で行われる試合を否定するのは、彼らを生殺しにすることである。(たごもりそ著『消費される青春の輝きとして』より)

高校球児は、死と隣り合わせだからこそ輝くのです。真っ黒に日焼けした、坊主頭で田舎者の高校生が、人生で一瞬だけ輝く舞台が甲子園。どのみち彼らは夏が終われば死ぬのです。せめて最期のきらめきは、夏の太陽という最高のスポットライトを用意しなければなりません。(たごもりそ著『高校考』より)

たくさん語ることによって、自分を貫く思想のベースが見つかる。たとえば以前(A,B,C)と言ったが、今回は(B,D,E)と言うとする。そのとき仮にAとDという二つの言説が矛盾をはらみ対立しても構わない。大切なのは言説Bがここでも再び現れたということだ。(たごもりそ著『話話し』より)

表現世界における新しい概念として、ディスコミュニケーショニズムを提唱します。(たごもりそ著『ディスコミュニケーショニズム』より)

すごい勢いで座席を二人ぶん占領したおばさんに遅れて、誰がくるのかと思ったらモコモコのトイプードルが走って来たときは、東京の電車ってすげーなと思いましたね。(たごもりそ著『犬猫八百』より)

近所から子供達の笑い声が聞こえて、耳をすますと豚の鳴き声になった。(たごもりそ著『昼寝』より)

われわれの帰属欲求は、内輪から生まれた流行りの言葉を模倣するだけで、容易に満たされるようになってしまった。言葉による安易な帰属意識は、マズローの欲求階層の上層にあたる尊厳欲求や自己実現欲求が満たされるのを阻害することに、君たちは気付かねばならない。(たごもりそ著『知識人へ』より)

われわれにとって、認識できるすべての死は他者の死である。であるならば、天国は「救われたい」ではなく「救われてほしい」という思いから生まれた、と考えるほうが自然ではないか。(たごもりそ著『死に改めよ』より)

小野寺くんなんか、最近僕が何を話してても内心「こいつ頭おかしいからなー」って思ってらっしゃるのがあからさまに顔に出てて、そうなると僕も期待通りに適当言って帰ろうっていう、そういうネガティブな関係が確立しつつありますね。(たごもりそ著『あるいは比喩としてのハバネロトマト』より)

人間を二つに分けると、舞台に立てば立つほど面白くなっていく人間が一割と、面白くなくなっていく人間が九割いる。そして残念なことに、前者は舞台に立とうなんてことは滅多に思わないため、今日も舞台の上はどうひっくり返っても面白くない人間たちで溢れている。(たごもりそ著『壮観』より)

知り合いの女子大生のフェイスブックに「いいね!」をおす中年オヤジのアイコンは、ちょっぴり切なく、ちょっぴりきもい。(たごもりそ著『will be next』より)

生理が重い女子が、全女子を代表するかのように発言する「生理中の女の子には優しくしなきゃだめだよ!」は、どういう顔をして聞けばいいのでしょうか。どうにも切ない顔をして、やり過ごすしかないのでしょうか。(たごもりそ著『深淵のフェミニスト』より)

最近、自分が偏屈な人間になってきているなあと感じる。自分の理不尽な言動に、屁理屈が追い付いていない。「一の理不尽に百の屁理屈を」がモットーだったではないか。(たごもりそ著『新社会人』より)

アイドルオタクの人たちに言いたいのは、綺麗なものばかり見ていては、もっと面白いものが見えてこないよ、ということです。(たごもりそ著『上からまりこ』より)

誰かが「ハーフってなんでみんなあんなに可愛いんだろうねえ〜!」って言っているのを聞くたび、日本にもおよそ50万人いるとされる「北欧とのハーフなのにそこまで可愛くなく生まれた人たち」を思い、心が痛む。決め付けは、いくない。(たごもりそ著『生粋のニホンジン』より)

「異文化」なんて、分かり合えるはずがない。この世には星の数ほどの「異文化」があって、大切なのはその「異文化」を知ることでも、肌で感じることでもない。ただただ、膨大な数の「異文化」を前に絶望し、分かり合えないことが分かればいい。(たごもりそ著『分かり合えないことから』より)

永久に分かり合えないことが分かって、初めてその両者の関係は完璧なものとなる。分かり合えている、あるいは、いつか分かり合える、なんていう幻想を抱いているうちは、一部たりともその相手とは分かり合えていないのである。(たごもりそ著『分かり合えないことから』より)

書を読まずに文を表すのは、こちらが読まなければいいだけで、構わないが、書をたくさん読み、それでいて文を表さないのは、不気味であり、不徳である。(たごもりそ著『積読書家』より)

丹精込めて書き上げた超絶面白ツイートより、ほぼ脊髄反射で生まれた「激ぶり便便糞」のほうがみなさんの人気を集めるという事実。この理想と現実の差に、僕は明日も世を憂い、そして、生きていくのです。今日の相違は、すなわち、明日の希望です。(たごもりそ著『F5』より)

今後の二人の関わりかたを考えるとき、その当事者性はもとより、複雑かつ難解な人間同士の関わりを取り決める際に一人の脳味噌では不足であり、二人の頭脳を利用したほうがいくらかましなのは単純明快なことである。ここに相談と喧嘩が生まれる。(たごもりそ著『夫婦という絶望』より)

親讓りの小心者で小供の時から損ばかりして居る。小學校に居る時分學校のジヤングルジムが怖くて三年間友達が出来なかつた事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。ジヤングルジムの上に居たら、いつそこから落下するか分らない。(たごもりそ著『坊や』より)

太陽ガザラザラシテキテ、ソロソロ日焼ケ止メクリヰムノ季節ニナツタ。世ノ女ドモニ倣ツテ、僕モ色ノ白サデ幾難カ隠ソウト思フ。(たごもりそ著『黄色人種ノ祈リ』より)

この世の「かわいい」の価値を消滅させるなんて、簡単なことさ。僕が「かわいい応援団」の団長になればいい。僕みたいにかわいくない人間がその団長になれば、たちまち「かわいい」の市場価値は暴落するのさ。(たごもりそ著『かわいい・かわいくない戦争』より)

おいしいたまごやきを作るために、最高級のたまごを取り寄せるのは、二流です。立派なめんどりをもらってくるのが一流で、ひなから育てるのはただの間抜けです。(たごもりそ著『王さまつきの料理人』より)

銃声が鳴り止めば、戦争は終わって戦後が始まる。それにくらべて、戦前の始まりは、明け方の空が徐々に白んでくるように、その前触れが曖昧模糊としている。気が付いた時には、すでに太陽は向こうの山から顔を出し、夜明けを告げている。(たごもりそ著『戦争前後』より)

今日もスタバのイケメン店員が、カップに雑なメッセージを書き散らして、お客様を幸せにしてる。やっぱり親切は供給過多なんですよ。親切は、他になんの取り柄も手立てもない、僕みたいな人間の最後の武器なので、みなさん軽々しく使わないでくださいね。(たごもりそ著『斜に構える男』より)

教育番組はフィクションだけれど、僕の命はフィクションじゃない。お葬式に集まる群衆は、死者のために祈るのではない。祈りは、他人の死を受け入れ、心の整理をするためのエゴイズムに過ぎない。だからお願いだ、僕を、僕が死ぬまえにちやほやしてくれ。(たごもりそ著『あるワクワクさんの死』より)

われわれは言葉でものを考えているくせに、いざ頭のなかの考えを言葉にすると、決まって右斜め上に大きく逸れる。見逃し三振はありえない。批評はいつも、空振り三振だ。(たごもりそ著『イーズン・イン』より)

「みんなが思いもつかないこと」を言うよりも、「みんなが思ってても言わないこと」を言うほうが、ずっと有意義だと信じている。そうでもなければ、なんの才能もない僕らが、どうやって這い上がっていけるというのか。(たごもりそ著『言わず語り』より)

われわれは、生まれながらにして、かまってちゃんである。だいいち人間なんてものは、男と女が、精子卵子が合体してしまうほどにお互いをかまいあった結果生まれるのであって、すべての人間は、かまってちゃんの遺伝子を、DNA螺旋にからめとっているのである。(たごもりそ著『生命原始』より)

新幹線や飛行機、長距離バスといった「予約系のりもの」にいつもギリギリで飛び乗るのは、待ち合い室やホームや路上で間抜けな面をしてのりもの様の到着・準備を待ちたくないからだ。人間を待つのは愉快だが、のりものを待つのはつまらない。(たごもりそ著『チャリにノッている男』より)

ホワイト企業にも泥のように働く人はいるし、ブラック企業にも能天気な給料泥棒はいるのです。同じ組織のなかでも人は一様ではないこと、そんな簡単なことを20年間生きていてまだ理解できていないところに、私はあなたたちの愚かさと限界をみるのです。(たごもりそ著『働くことと生きること』より)

やれこの会社はブラックだなどと、いちいち受ける会社の企業名をネットで詮索するような気弱さと生真面目さを持ち合わせている時点で、どこの会社に入ろうが、そんな奴はただ働き蟻になるだけである。(たごもりそ著『働くことと生きること』より)

「人の名前を覚えるのが苦手」とか「顔と名前がなかなか一致しない」とか、そういう腑抜けたことをおおっぴらに公言してるやつらが、リクルートスーツに身を包んでたいそうな自己アピールをしているわけですから。(たごもりそ著『働くことと生きること』より)

あなたも私も、いつ死んでしまうか分かりません。だから、ごはんはなるべく一緒にたべましょう。(たごもりそ著『人間嫌い』より)

生まれたばかりの赤ん坊が大声をあげて泣くのは、お母さんにかまってもらうためだ。われわれは、生まれながらにしてかまってちゃんだったのである。そして大人になり、男は女に、女は男にかまってもらい、やがて、新たなかまってちゃんが生み落とされる。(たごもりそ著『あるかまってちゃんの一生』より)

野球選手はグラウンドで野球をしているから価値があるのであって、オフはただのおじさんである。だからオフの選手の動向には一切興味がない。というか、毎年冬には野球のルールをことごとく忘れて、春に覚え直している気さえする。所詮はにわかなのである。(たごもりそ著『外人野球』より)

われわれの世代は戦争を知らない世代ってことになってるけど、イラク戦争では自衛隊が派遣されたわけだし、ふつうに戦争世代なのかもしれない。だとすると、当事者意識がないぶん、タチの悪い戦争世代なのでは。(たごもりそ著『よい戦争?』より)

どうせすぐ死んじゃうんだったら、間違ったまま、知らないまま死んだほうが幸せってこともあるかもしれない。だからもう、ジェンダーとかインターネットとか、この時代の「本当のこと」は、極力、言わないであげよう、と。(たごもりそ著『戦争を経験している老人に言ってはいけない20のこと』より)

すべてのハーフの人が、ハーフじゃない人を馬鹿にしている、と仮定するじゃないですか。そこから生まれてくるハーフじゃない人間の表現とか発想みたいなものは、全部無駄ですか?っていう、そういうことなんですよ、僕が言いたいのは。(たごもりそ著『文学における虚数として』より)

たしかに人は涙の数だけ強くなれるけど、もっと手っ取り早いのは、敵を作ることよ。1人の友達を作るなら、それと同時に10人の敵を作りなさい。友達は誰でもいいけれど、敵は優秀で、人望があるほうがいいわね。(たごもりそ著『東京祝賀』より)

僕がもし総理大臣になったら、世界中全ての銀杏が生ってる木を切り倒して、「イチョウの葉っぱに秋を感じるなあ」なんて風流なことをぬかしてるやつの実家に大量の銀杏を送り付けてやります!どれもちょっと潰れたやつを!(たごもりそ著『愛と追憶のマニフェスト』より)

桃から生まれたのが桃太郎なら、おれは機敏から生まれた機敏団子さ。とにかく、あんたの繊細な心の動きから生まれた、ただのまんまるな情緒の塊にすぎないんだぜ。(たごもりそ著『新版あたらしい桃太郎』より)

引用の形式を採ることによって、(1)前後の因果関係を内包できる(2)発言の内容に根拠があるように思わせやすい(3)発言の責任を回避しやすい等のメリットがある、とされている。また、大学生が好む「引用」へのアンチテーゼだという説もある。(たごもりそ著『引用』より)